サウジアラビア人、射出座席からテックレビューへ-KSAチャートでトップに

ロンドン:自らを「テクノロジー愛好家」と称するファイサル・アル=サイフ氏に話を聞くと、テクノロジーに関わりのないアドバイスが返ってくることはまずないだろう。
しかし「テックダイエット」(より一般的にはデジタルウェルビーイングとして知られる)という概念は、ガジェットを軸に仕事をし、ソーシャルメディアを主要なプラットフォームとして依存している人物から提唱される場合、一層の重みを持つ。
この、一見分析的でWeb1.0的な視点を超えて、アル=サイフ氏は20年以上にわたるテック専門家、今風に言えばコンテンツ・クリエイターとしての経験を活かしている。
「私は早い段階から、テクノロジーは人々をより結びつけ、世界を今以上に小さくし、私たちをより活発に、より生産的にし、宗教や家族、そして現実の生活のためにより多くの時間を使う為に存在すると信じてきました」と、アル=サイフ氏はアラブニュースに語った。
アル=サイフ氏は、BAEシステムズで航空機エンジニアとして訓練を受け、サウジ空軍のジェット機用射出座席を専門に担当した後、2004年に放送業界に入り、KSA2の英語番組 「2You 」の司会とプロデュースを務め、その後、テクノロジー番組 「Up To Date KSA 」を制作した。
2009年、アラビア語の技術系コンテンツのギャップを埋めるため、当時はリーチが限られ収益化もできなかったYouTubeに転向。
「当時は、デバイスやシステム、情報の一部について検索すると、主な言語は英語でした。そこで、チャンネルを作り、アラビア語と英語の両方で良いコンテンツを提供することにしました」と、アル=サイフ氏は語った。
このアプローチでは、動画を2回撮影する必要があった。当初は英語の動画の方が再生回数が多く、アラビア語は伸び悩んでいたが、アラビア語のコンテンツが人気を集めるにつれ、月ごとに変化していった。
「当時を振り返れば、それは収入源ではなかったです。本業でも、副業的なものでも、パートタイム的なものでもなかったのです」と同氏は語った。
今日、アル=サイフ氏のチャンネルは、ブランドの圧力ではなく、視聴者のニーズに基づいて製品を買うべきか避けるべきかを導く、わかりやすいレビューを提供している。
「私は、人々に価値を与えるコンテンツを作るのが大好きです。情報を完結に纏めるのが好きです。テクノロジーには狂ったように夢中です。新しい技術を見て、テストして、いち早く取り入れるのが好きなんです。『これはこういう理由で優れているが、あの点を改善すればもっと良くなる』と伝える。企業が売り込みたい商品ではなく、個人の好みに基づいて買うべきか否かを伝えるんです」と、同氏は語った。
クリエイターは通常、広告収入、ファンからの出資、プロダクト・プレースメント、スポンサーシップを通じて収入を得るが、アル=サイフ氏は 『インフルエンサー』 というレッテルからは距離を置いている。
その一因は、長年にわたり私たちが経験してきた苦闘にあります。それは、私たちと関わるすべての人々にとって価値あるビジネス提案を創出しようと努め、提示する内容について非常に公平かつ誠実であり、企業を支援すること、ビジネスを求めるのではなく、ただ企業を支援することだけを目的にしてきた姿勢です」と、同氏は続けた。

チャンネル開設から20年近く経った今月初め、アル=サイフ氏はサウジアラビアの2025年YouTube視聴数トップ10チャンネルにおいて、アラブ人コンテンツクリエイターとして首位に選ばれた。同地域からの唯一の選出となったこの快挙を、彼は「良い意味で衝撃的」と表現した。
「トップ10に入ったことで、16年ぶりに背中を押されたような気がします」と、同氏は登録者数892万人のUTDサウジアラビア・チャンネルについて語った。
「病院に行くと、私を知っているサウジアラビア人がたくさんいます。でも同時に、フィリピン人看護師が近づいてきて『あなたの動画を見ています』と言ってくれるんです。YouTubeや教育コンテンツだからこそ実現できる、こうした多様性が私は好きです」と、同氏は続けた。
アル=サイフ氏は、YouTubeを情報に基づいた意思決定を助ける現代的なビジュアル・ライブラリーとして捉えている。ソーシャルメディアが短編動画にシフトする中、彼はこのプラットフォームがこの傾向に抵抗していると考えている。
「もし全てが短編のコンテンツなら、それは私たちが人々の注意力の短さを助長していることになります」と、同氏は語った。
アル=サイフ氏は、情報に基づいた決断を促すために、簡単なストーリーから始まり、詳細が語られる長編レビューを支持する。対照的に、3秒や超短時間動画は注目を集めるのには優れているかもしれないが、重大な決断にはほとんど役に立たないと彼は主張した。
2012年、ビジネスチャンスを見出した同氏はBAEシステムズを退職した(当初は2年だけの予定だった)。Tech Pills Productionsを設立し、インテル、マイクロソフト、HPなどの企業向けコンテンツ制作を支援。この決断が彼のキャリアを飛躍させた。その後テック系スタートアップへの投資も手掛けるようになったが、彼は自らを「投資家」とは呼ばない。
「私は起業家でも投資家でもありません。ただテクノロジー愛好家だと思っています」とアル=サイフ氏は語り、「事業の多角化と新たな柱の構築に自らを駆り立てています。ですから他の投資分野にも進出し、様々なパートナーとアプリケーションの開発に取り組みました。それらは全て順調に進みました。その経験が、ビジネス目的ではなく純粋な喜びのためにコンテンツを創ることに、より自信を持たせてくれたのです」と、続けた。
2021年、アル=サイフ氏は医療向けEHRプラットフォーム「Karaz」(アラビア語で「さくらんぼ」の意)を支援した。同プラットフォームはIoT、AI、リアルタイムデータを活用し、元々は糖尿病児向けゲーミフィケーションアプリとして開発された。「(プロジェクトに惹かれるのは)人間味があるかどうかです。データを人間の変化と前向きに結びつける点に感銘を受け、迷わず投資を決断しました」 と、同氏は語った。
AIによる提案が殺到する一方で、過去の失敗が同氏に一定の「マーケティングへの抵抗」を残している。
「AIは、AGI(人工知能)やその先の段階に入るための(適切な)ステップを踏んでいれば、付加価値を生むことがわかります。それが適切な発展です。しかし、すべてをAIに関連付けようとする誇大広告は、私は絶対に反対です」と、アル=サイフ氏は語った。
AIはこの3年間、ヘッドラインを席巻し、経済ブームを煽るとともに、雇用の喪失や倫理的リスクをめぐる議論を巻き起こしてきた。アル=サイフ氏は、この技術の「無限の可能性」を認めつつも、誇大宣伝が長続きし、最終的にAIが世界を動かすことになるのかどうかについては疑問を抱いている。「そうはならないとおもいます。AIから転用されるか、あるいはテクノロジーの別の分野から転用されるかして、別の方向へ向かうでしょう」と、同氏は続けた。
人々がもっと意識すべきことは何かと問われた同氏は、AIの二面性についてもっと一般に教育するよう促した。
「AIは料理に使える包丁であり、人を刺すこともできる包丁です。AIには深刻な側面があり、悲しいことに、世界はその認識について十分な対応をしていません」と、アル=サイフ氏は述べた。
より深い理解がなければ、制御されないAIは、真実かどうかに関わらず、与えられた情報だけで形成された世代を生み出す可能性がある、と同氏は述べた。さらに、この技術はすでに「AI生成」と称して悪質な行為を正当化し、事実と虚構の境界を曖昧にしているため、規制が不可欠だと付け加えた。

サウジアラビアはデータ・AI庁を通じて責任あるリーダーシップを発揮しているとし、「規制面、ガバナンス面、そしてインフラやAI企業への大規模投資において、多角的に非常に順調に進んでいると思う」と、同氏は述べた
王国の権限のもと、同国はAI技術の最先端に位置づけられる野心的な計画を始動させた。アル=サイフ氏は直接的・間接的に貢献しており、イスラム世界におけるAI倫理に関するリヤド憲章といった公共戦略への助言も含まれる。
「非常に興味深い場所と時期にいます。私は、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子と会談しました。皇太子は、 AI、自身のビジョン、そして AI がどのように次のビジネスの波と経済の波を生み出すかについて話しました」と、同氏は語った。
私たちの社会は技術進歩に執着しているか、と尋ねられたアル=サイフ氏は、「私たちは必要なもののために(技術を)取り入れています」と答えたが、オーストラリアが最近実施した若年層向けソーシャルメディア禁止措置のような制限は必要だと続け、「しかし、サウジアラビアでは禁止せず、システムを構築しようとしています」と、続けた。
同氏は自宅では、子供たちのスクリーンタイムを管理したり、一緒にコンテンツを見たりしている。「YouTubeは、長時間の動画やVlogという性質上、依然として最も安全なプラットフォームだと感じています。検閲や管理の方法、運営の仕方において、他のどのプラットフォームよりもはるかに成熟しているのです」と、同氏は語った。
しかし、若い世代がテクノロジーに親しんで育った世代として、特にプライバシーに関して、テクノロジーとの関わり方を異なって認識している点には同意した。
「プライバシーというのは、ある意味伸縮性のある概念なんです。子供たちが成長するにつれて、お互いのプライバシーの定義が異なってきます。それがきっかけで、プライバシーについて考えさせられました。情報を手放しているわけではありません。 プライバシーという感覚を作り出しているのは、私たちが生きている環境なんです」と、アル=サイフ氏は語った。
アル=サイフ氏は、プライバシーはすでに再構築されていると考えている。私たちが大切にする価値としてではなく、真の個人の境界線が浸食された幻想として。残されているのは、オンライン上の行動の単なる反映に過ぎず、名前と結びつくこともなく、デジタル空間における匿名のデータポイントや数字へと還元されてしまっている。
同氏にとって、その答えの一部は「断絶の力」にある。これは彼が強く提唱してきたアプローチである。
「私は1日最大1~2時間(オンラインで)他のことを知るために使っています。12時間クールな人生を送りたい人へのアドバイスは、テクノロジーとは無関係な何かを体験したり学んだりしてみてください」 と、オフィスで飼っている蜂の巣を指しながら、アル=サイフ氏はこう付け加えた。
「そうすることで、明確な精神状態に達することができるんです。電池のないガジェットや電化製品を使って仕事をするようにしています」と、同氏は結んだ。






