『ライラさんと学ぶアラブのお菓子 ハルワ入門』 マンガで巡るアラブ文化の旅

ドバイ:『ライラさんと学ぶアラビックスイーツ ハルワ入門』は、中東を何度も訪れてきた日本人作家・白河清兵衛氏による最新の短編マンガである。白河氏は以前にも『ライラさんと学ぶアラビックコーヒー』という同人マンガを発表しており、本作でも漫画家・にしやまゆーいち氏が作画や内容企画にも携わっている。

とりわけ本作は、にしやま氏のささやかな要望が制作の発端となっている。にしやま氏が初めてハルヴァ(エッセイ準拠)を知ったのは、米原万里氏のエッセイ『旅行者の朝食』を通じてだった。同書は、世界各地を旅した通訳者による食文化にまつわるエピソードを集めた作品である。
その中の一編「トルコ蜜飴の版図」では、著者が友人と初めて食べたハルヴァを「信じられないほど美味しかった」と回想している。しかし、その後長い間、同じハルヴァに再び出会うことはできなかったという。

米原氏は世界各地で「ハルヴァ」と呼ばれるさまざまなお菓子を食べ歩き、その体験を情熱的な筆致で綴った。
そのエッセイを読んだにしやま氏も、中東のお菓子への興味を強く抱くようになった。

そしてある日、白河氏とライラさんとの縁を通じてアラブコーヒーをテーマにしたマンガ制作に関わることになり、その際に長年憧れていたハルヴァについて話したところ、白河氏を通じて入手し味わうことができた。
実際にハルヴァを口にした瞬間、にしやま氏はその驚きと感動を、時を超えて米原氏と共有できたという。
その詳細な感想は、ライラさんとの物語の中で描かれており、読者もその体験を追体験できる。
本作では、ライラさんが湾岸協力会議(GCC)諸国や北アフリカなど、アラブ世界各地における「ハルワ」の起源や種類、主要な原材料について、楽しく学べる形で解説している。
本作は同人誌であり、特定の読者層に向けて制作された自主出版作品である。白川氏の作品は、日本のゲーム『アイドルマスター シンデレラガールズ』のキャラクターをベースとしている。
ゲーム内でライラさんはドバイ出身として描かれており、日本に渡ってアイドルとして活動している。近年は歌手としてCDをリリースし、ライブ活動も開始するなど活躍の場を広げている。アイスクリームが大好きなキャラクターでもある。
マンガの中でライラさんは、アラブのお菓子への愛情を語りながら、ハルワ(Halwa)とラハシュ(Lahash/Rahash)の違いを、食感・材料・味の観点から説明している。
ドバイ在住のいとこから届けられたハルワを味わったライラさんの友人たちは、その味と食感に驚く描写がなされている。
同人誌では、ハルワはギー(澄ましバター)、砂糖、そして数種類のスパイスやナッツを混ぜ合わせて作られていると書かれている。
この説明は大体合っているが、「コーンスターチ」も重要な原材料の一つであることは付け加えておくべきだった。
コーンスターチを入れることで、ハルワならではのあの独特な柔らかい食感が生まれるからだ。
その意味では内容にミスがあるといえる。

マンガでは、家庭で作られる手作りハルワについても触れられている。
これは非常に希少で価値の高いものであるが、事実には則しているため内容としては間違いではない
そしてUAE家庭で手作りハルワが振る舞われることは、今なお特別で忘れがたい体験として広く認識されている。
しかし、現代においては多くのエミラティ(UAE国民)でさえ口にする機会は少ないため、普通は専門店で購入している。

また前述の通り、アラビア半島の各国には独自のハルワ文化が存在する。
その中でもオマーンのハルワは、UAE、サウジアラビア、クウェートを含むアラビア半島の広い地域で特に高い人気を誇る。
さらに、バーレーンのハルワのように赤、黄色、緑などさまざまな色合いを持つものも存在する。
そのため、オマーニハルワのアラビア半島における人気に触れたり、色鮮やかなバーレーニハルワに関する作中の描写は正確であると言える。

ハルワはUAE文化にも深く根付いたお菓子であり、結婚式やさまざまな社会的行事で頻繁に提供される。
伝統的には大きく深い器で供され、指ですくって一口食べるが、近年では衛生面への配慮から、一人分ずつ小分けされたカップ入りの商品も一般的になっている。
そのため、本作の描写も現代の実情に即したものといえる。

一方で、シリア、モロッコ、エジプトなどアラビア半島以外の国々で見られるハルワ系のお菓子は、しばしばラハシュとして知られており、両者は混同されることが多い。

マンガ冒頭では、Pヘッドプロデューサーがハルワだと思ってラハシュを購入してしまい、ライラさんが大きなショックを受ける場面が描かれている。
これはギャグ的な誇張表現ではあるものの、文化的な違いを反映した描写でもある。
そしてUAEや近隣の湾岸諸国では、ラハシュをハルワと呼んだ場合、多くの人はすぐに違いを指摘することは想像に難くない。その意味では間違いではない

同人誌の内容から若干外れるが、「ハルワ」という言葉は、実は中東や南アジア全域に存在するさまざまな甘味菓子を指す、より広義の名称である。
ラハシュは、その広大なハルワ文化の中の「ゴマを主体とした一系統」と考えることができ、中東版のナッツ・ファッジのような菓子とも説明され、湾岸地域(特にUAE、カタール、クウェート)で人気のあるタヒニベースのハルワの一種であり、濃厚でホロホロと崩れる食感とゴマの風味が特徴である。
しかしながら、湾岸地域において「ハルワ」という言葉から最も一般的に連想されるのは、オマーニ・ハルワであり、ラハシュとは明確に区別される。

また、日本の一部出版物ではラハシュをハルワとして紹介している例もあるが、こうした紹介は、アラビックシーツ文化への誤解を招く要因にもなり得る。
ここはエミラティとしても是非とも指摘しなければならない。
尚、オマーンのハルワは昨年の大阪・関西万博オマーン館でも提供され、日本人に親しまれている餅と組み合わせた革新的なフュージョン菓子として紹介された。
オマーンのハルワと柔らかな餅を融合させることで、来場者に文化を越えた味覚体験であり、味に関してはオマーンのハルワを日本で体験できるほぼ唯一の貴重な機会・場所であったと推察される。
その意味で、会場でハルワ餅を食べられた方はとても幸運であったと言える


以上のことから、本作はアラビックスイーツを知りたい日本国内外の読者に向けて、非常に興味深く教育的な形で紹介している。
最後に、筆者おすすめのUAEで食べることが出来るオマーンのハルワの店舗リストを掲載する。
UAEにはオマーン本国と同等の珠玉のオマーンのハルワを食べることが出来るため、本作を読んだ読者諸賢、また大阪万博でハルワ餅を食べてオマーンのハルワに興味を持たれた方が居たら、UAEに来られた際は是非とも本場のオマーンのハルワを体験していただきたい。
以下はUAEでのレイラさんおすすめのハルワのショップだ。
アル・ハラシ・オマーン菓子
ドバイのフェスティバルシティモールとデイラに所在。
アルラムズ・オマーン・ハルワ
アブダビのムサファに所在。
ゴールデン・ファルコン・オマーン・ハルワ
アブダビのアル・サアダに所在。
アル・ハラニーヤ・オマーン・ハルワ
ドバイのナッド・アル・ハマルに所在。
アル・スルタニア
アブダビのアル・シャハマに所在。







